-辞本涯-。その碑(いしぶみ)は五島列
島福江島最北端の三井楽町柏崎に建つ。
この地は、遣唐使船が水の補給や風待ちを
した、最後の寄港地である。「辞本涯」とは
祖国の最果てを去る、という意味だ。様々な
苦難や死の危険を覚悟して、日本に新しい文
化を築く為彼等は遠い唐の国へ旅立った。
離島のしかもシーズンオフの旅は私と友人
の二人きりで、周りに人影は無い。目前に広
がる海原を見つめ、黙して当時を偲ぶのみ-。
平成13年5月
-辞本涯-。その碑(いしぶみ)は五島列
島福江島最北端の三井楽町柏崎に建つ。
この地は、遣唐使船が水の補給や風待ちを
した、最後の寄港地である。「辞本涯」とは
祖国の最果てを去る、という意味だ。様々な
苦難や死の危険を覚悟して、日本に新しい文
化を築く為彼等は遠い唐の国へ旅立った。
離島のしかもシーズンオフの旅は私と友人
の二人きりで、周りに人影は無い。目前に広
がる海原を見つめ、黙して当時を偲ぶのみ-。
平成13年5月
猪や猿などが田畑を荒らすので農家がその
対策に頭を悩ませている事をよく耳にする。
特に猪は広範囲に出没して、最近は県内の
島嶼部まで広がっているようだ。蒲刈町では
昨年百九十頭も捕獲され、ミカン畑などの被
害額は三億五千万円にも上るそうだ。
増えた原因は色々あるが、その一つに人間
の食物の味を覚えたことがあげられる。一度
味を占めると忘れられないものとみえる。
グルメ指向は人間だけではないようだ。
平成13年4月
島嶼部(とうしょぶ) 「島」は大きなしま、「嶼」は小さなしまの意味
蒲刈町(カマガリチョウ)広島県呉市にある
連日背筋の凍るような凶悪犯罪が報道され
ている。しかも青少年に多発している。成人
式にも悪ガキとしか言えぬ、大人になりきれ
ぬ成人が各地にみられた。全く嘆かわしい。
私は森首相のように、日本を天皇中心の神
の国とまでは言わないが、せめて信義・礼
節・質実剛健を重んじたサムライ・武士道の
国ぐらいにしても良いのではないかと思う。
物わかりのよいやさしい父親より、子ども
の我が儘を断固許さぬ厳父が必要だ。
平成13年2月
「百パーセントの自信があると言いながら、政権奪取の夢が破れた加藤さんも格好悪いが支持率が下がって野中さんに見放されても夢が覚めん、森さんにもあきれるよのー」
「夢が破れるぐらいまだええよ。家や仕事を失い親子が離れて暮らす三宅島の人や、バスジャックのような狂気の殺人犯の被害者はまさに悪夢、ほんまに気の毒じゃ」
「まあ、夢が叶うたのはオリンピックのゴールドメダリストぐらいかあ」
「ほんま、近頃交通事故や犯罪は増え続けるし、わしらはIT革命いうもんにもようついていけんし、夢も希望もありゃせん」
「ところで、あんたは宝くじで三億円の夢は買わんのかい」
「あんとなもんは儚い夢、当たっても人生狂わせるだけじゃわい。夢はヤワラちゃんやキューちゃんのように、努力の上に積み重ねて初めて叶うもんよ」
---師走の巷の片隅で老人達の会話が続く。
平成13年1月9日
明治35年9月19日に没した俳人子規の追悼
句には/朝寒や柩を送る黍畑・春郊/のよう
に「朝寒」を季語にした句が多い。
又、大正5年12月9日に没した文豪漱石の
追悼句には/木枯や庭の描碑に薄日さす・東
彩/のように「木枯」を季語にした句が多く、
作品に因んで「猫」を題材にした句もある。
さて、俳人の彼なら私にどんな句を供すだ
ろうか。いや、その逆かな?お互い、吾や先、
人や先、明日の事が分らぬ年になった。
平成12年12月
黍畑=きびばたけ
春郊=のどかな春の郊外
「わしらも年をとってもう枯木じゃのう」
「うん、枯木や枯葉は朽ちて次の新しい芽を
育てる肥やしになる。人に嫌われるゴミに
なっちゃーいけんが、ええ肥やしになりた
いもんよのー」
「あんたはまだ水気が十分残っとるけえ、枯
木とは言えんで」
「えっ、そりゃあ色気があるということかい」
週に一度、老友夫婦を訪ねて、こんな他愛
の無い会話を楽しんでいる。
平成12年11月
わが家の婿殿は「釣りバカ日誌」の主人公
ハマちゃんのように釣りが好きで腕も良い。
その上獲物を自分でさばき、料理も色々工
夫して食べさせてくれる。お陰でいつも獲れ
たての最高の味を賞味する恩恵を受けている。
ところが釣りには腕と良い餌が欠かせない
が、男女の恋愛にも同じ事が言える。やはり
甘い言葉や贈り物などの腕と餌が必要だ。
さて、こんな良い婿殿を釣り上げたウチの
娘もなかなかの腕、餌は何だったのだろう。
平成12年10月
稲、麦などの農作物は言うに及ばず、その
他の栽培植物や、飼育動物の品種改良は昔か
ら広く行われていた。
更に最近では、生物学・遺伝学の進歩によ
って加速され、品種改良にとどまらず、遺伝
子の研究から生命の仕組みが解明され、難病
の診断・治療やクローン、遺伝子組み替えな
どの生命操作まで可能になった。
種なし西瓜やピオーネは大歓迎だが、遺伝
子組み替え大豆で作った豆腐は遠慮したい。
平成12年9月
近頃は、稲架や「わらぐろ」などの農村の
秋の風物詩がめったに見られなくなった。
稲作の機械化によって刈り取りと同時に脱
穀され、稲束は短く切り刻まれて田に撒かれ
るからだ。日本では主食の米を稲作で得るだ
けではなく、藁を雪囲いや家畜の敷き藁、畳の
床に利用したり、筵や俵、かます、縄、草履
藁沓などを作る豊かな藁文化があった。
省力化によってそれらは姿を消し、過疎に
なった農村には廃屋や休耕田が生まれた。
平成12年9月
稲架=はさ、はざ、はせ、はぜ、はで 昔は稲を束にくくって、稲架に掛けて乾燥させた。
藁=わら
草履=ぞうり
筵=むしろ
俵=たわら
かます=藁を編んで作った大きな袋
唄われよーわしゃ囃す/恋の八尾はおわら
雪の中/キタサノサードッコイサノサーサ。
哀調を帯びた胡弓の音色と絶え絶えの声を
引いた歌い手の声が高まる。編傘を被った男
女の踊り手の列は、ゆったりした動きでぼん
ぼりの灯るゆるい坂道を静かに下って来る。
傍らにいるのは「あなたと一度きりでいいか
ら風の盆に行ってみたい」と言った、小説「
風の盆恋歌」の女主人公えり子ではなく、酒
と俳句をこの上なく愛する老友だった。
十行随筆 2008年8月
囃す(はやす)